1. 記憶の保持は、特定のニューロンのはたらきだけで説明できるものではない。また、記憶の保持に特化した領域が脳にあるわけでもない。記憶には、脳の多数の部位が同時に関与しているし、脳の持ついくつもの機能、特徴(脳自体の可塑性、シナプスの可塑性など)が相まって、はじめて記憶の保持が可能になっていると言える。それに関わっている化学反応も多数に及ぶ。さらに重要なのは、記憶に関わるニューロンのはたらき、化学反応は、どれも記憶に固有のものではないということだ。記憶のメカニズムは、はじめからその目的で作られたというより、進化の過程で場当たり的に作られたものの借用、転用ととらえるのが正しいだろう。胎児期から乳幼児期にかけての発達段階では、脳の「配線」が行われるわけだが、記憶のメカニズムは、おそらく、この配線のメカニズムを転用したものだろう。どちらも、経験に影響を受けるところが共通している。
    — 『つぎはぎだらけの脳と心 脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?』(デイビッド・J.リンデン/インターシフト)